連載コラム:コンタクトセンターの
マネジメントとITシステム

第7回 センターシステムの選び方③
(専門家が語る選定のポイント~投資対効果の計算編)


コールセンターシステムの選び方として、1回目は基本的な心構え、2回目は選定プロセスについて述べましたが、今回は投資対効果の計算についてです。クラウド型プラットフォームの登場で、初期導入の敷居が低くなったとはいえ、やはりコールセンターシステムは企業にとって大きな買い物であり、経営的にも大きなインパクトがあるので、システム導入の投資対効果をしっかりと定量化し、経営の承認を得る必要があります。
プライムフォース株式会社 澤田 哲理

導入前に投資と効果の計算方法を定義する

導入前に投資と効果の計算方法を定義するシステム導入の投資体効果については、財務的な計算方法や投資に含む費用の範囲などいろいろな考え方がありますが、共通しているのは投資(システム導入の費用や付帯する教育コストなど)と効果(売上向上などのプラスの効果+効率化などのコスト削減)を比較することです。当然、効果が見込めなければ、経営のゴーサインは出ません。オンプレミスのシステムは、初期費用や開発費用が大きいため、投資対効果を実現するために3年~5年と長期間かかるため、会社を取り巻く環境も変わる中での効果検証は難しかったといえます。しかし、クラウド型システムでは短期間で投資対効果の実現見込みが立てられるため、導入前に投資と効果の計算方法を定義し、確実に測定できる仕組みを提示すれば、経営の承認を得やすくなるでしょう。

投資対効果の計算根拠は効率化だけなのか?

AIやチャットボット、CRM(顧客管理システム)、FAQやナレッジマネジメントシステム、ワークフォースマネジメント(人材管理)、新しいところでは音声認識や感情解析など多くの先進的な機能活用が未来のコールセンター像として描かれています。
導入企業のプレスリリースや業界誌のニュース、実際にシステムの有効活用をしたいというご相談を受ける時に、当初の投資対効果の計算資料をみて驚くことがよくあります。
それは、システムの華々しい機能が導入の動機として挙げられる一方で、金額的な投資効果として計算されているのが、「効率化による処理時間の短縮や処理数の削減」だけのことが多いからです。確かにAIの支援やFAQの効率化、シームレスな操作環境などは、オペレーターの処理時間の短縮に貢献することでしょう。しかしながら、問合せ内容の変化やオペレーションのマネジメント状況によっては、その効果を実現できないかもしれないし、あるいはシステムの効果ではなくマネジメントの高度化によって実現されてしまうものかもしれません。ですので、効果の計算には効率化だけではなく、顧客価値向上を定量化して入れるべきでしょう。

顧客体験の向上と顧客の生涯価値(LTV)の向上こそ本当の効果

投資対効果をしっかりと経営にアピールするためには、効率化に加えて、顧客価値をどのように向上できるのかを数値化することが重要です。現在は、あらゆる産業がモノやサービスの売り切りモデルから、定期的なサブスクリプション・モデルに移行しています。これが、 コールセンターにどのような影響がでてくるかというと、1回限りの売上を拡大するようなセールスコールやセンター単体の対応の精度や効率性の向上だけでは、本当の意味での経済的貢献が計れなくなってくるということです。システムの導入によって顧客体験がどのように変わるのか、そしてコールセンターの対応によって、顧客の生涯価値(LTV=Life Time Value)をどのように向上できるかを計算しなければなりません。例えば コールセンターのシステムを更新するだけでなく、営業や社内システムとの連携を強化することにより、一貫性のあるサービスが顧客に提供できるようになり、LTVが一気に向上する可能性があります。 顧客が企業に一人の顧客として認知され、自動化したチャネルであれ、コールセンターや店舗であれ、一貫性のある情報やサポートが提供されれば、解約や離反が減るだけでなく、サービスの利用も拡大するかもしれないのです。その時の中長期的な売上向上をシステム導入の効果として定量化すべきなのです。

多面的なシステム導入効果の検討

エフォートレスが顧客価値向上のキーワード

顧客がサービスの購入や利用を継続していくには、センター業務の効率化だけでなく、顧客が感じるイライラやめんどくさいといった思いを払拭し、迅速かつ簡単に問題を解決すること、必要十分な情報を適時に提供することが重要です。これらを「エフォートレス」な顧客体験といいます。会社目線で正しい情報を提供しようとするあまり、例外的な参考情報までオペレーターに聞かされたり、慣れない営業トークをされたりするよりも、そもそもコールセンターに電話する必要がなく、スマホのアプリやチャットボットで済ませられるほうが、エフォートレスであり顧客にとっては良いのです。エフォートレスな体験は、コールセンターで良い顧客体験を提供することと同じくらい、顧客価値向上に効果があります。そのため、コールセンターの体験だけを費用対効果の対象にするのではなく、エフォートレスで何も問い合わせする必要がなかった「体験」も費用体効果の対象にすることが重要なのです。

クラウド型のプラットフォームでは投資対効果の検証が容易に

幸いなことに、現在では顧客接点に関わる先進的なシステムの多くが、クラウドサービスで提供されています。大規模な初期費用でシステムを導入しなくても、部分的に導入し、投資対効果をより精緻に修正していくことも容易になりました。
顧客価値向上の計算には経営レベルやマーケティング部門などの協力が必要となるため、コールセンターに存在する効率性データだけで計算する方が簡単かもしれません。しかし、本当に必要なシステム投資の金額を経営に承認してもらうためには、こうしたポジティブな要素を定量化し、システム導入の目的、多面的かつ定量的な効果測定の指標が盛り込まれているか、そしてどうしたら成功なのかという仮説を検証することが必要なのです。

まとめ

  • ・システム導入を経営に承認を得る際に重要なのが投資対効果
  • ・投資対効果は、効率性の向上だけでなく顧客価値の向上を定量化して計算しよう
  • ・クラウド型コールセンターシステムは、投資対効果の仮説検証をしながら導入できる

著者プロフィール

澤田 哲理

マネジメントとITシステムの最新トレンドを組み合わせたコールセンター・コンサルティング会社 
プライムフォース株式会社 共同ファウンダー/代表取締役

顧客サービス部門オペレーターを皮切りに顧客満足度分析、コールセンター運営マネジメント、ICTシステムの導入、アウトソーシング先選定と運営など多岐にわたるマネジメント業務を経験する。
船井総合研究所グループ企業で14年にわたり、顧客接点のパフォーマンスマネジメントの世界標準であるCOPC規格のリード監査員・シニアコンサルタントとして、のべ100社以上の監査や支援を実施。
業界動向に対する研究や知見を通じて、次世代の顧客接点設計を手がける。

日本コンタクトセンター教育検定協会 CMBOK知識スキル体系 主任編集委員として、スキル体系のほか5資格のテキストを執筆
CIAC Call Center Strategic Leader/ITILファウンデーション/PMP(Project Management Professional)/上級シスアドを過去に取得