Biz Magazine トップ > IoT > デジタルツインとは?注目される背景やメリット…
デジタルツインは、現実世界にある物理的なものをデジタル空間に再現して、そのモデルを活用して様々なシミュレーションを行える技術です。最新テクノロジーを駆使しており、設備保全や品質向上、コスト削減、リードタイム短縮など多くのメリットをもたらすため、製造業を中心に注目を集めています。
本記事では、デジタルツインの概要やメリット、活用事例などを紹介します。デジタル化が進む現代に、ビジネスに革命をもたらすデジタルツインについて詳しく見ていきましょう。
まずは、デジタルツインの概要と混同されやすいシミュレーションとの違いについて解説します。
デジタルツインとは、IoTなどによって収集した情報を基に、仮想空間に現実空間やプロセスを再現する技術のことです。物理的なオブジェクトと対応する仮想空間でシミュレーションを行えることから、製造工程の見直し・改善などに利用されています。
また、デジタルツインは産業界だけでなく行政による活用も進みつつあります。東京都では「スマート東京実施戦略~東京版Society 5.0の実現に向けて~」が2020年2月に発表され、行政におけるデジタルツイン活用の取り組みを始めました。
戦略案の中では様々なデジタル技術活用がうたわれています。その中でも都のデジタルツインの活用は「デジタルツイン実現プロジェクト」と題して、2030年までの実現を予定しています。
参照:「スマート東京実施戦略~ 東京版Society 5.0の実現に向けて ~」
デジタルツインはシミュレーションの一種であり、両者は類似しているように見えます。しかし、デジタルツインはシミュレーションと根本的に異なるアプローチを用いた技術です。
シミュレーションがあくまで仮想的な状況を再現するのに対して、デジタルツインは現実の状況を反映してモデル化します。このことから、両者では大きく2点の違いがあります。
1点目はリアルタイム性です。シミュレーションを行う場合は実験を行った結果をもとに対策や改善を実行します。そのため実験から対策や改善を行うまでに時間を要します。一方デジタルツインは現実空間と仮想空間がリアルタイムで連動しているため、リアルタイム性の高い実験を行うことができます。
2点目に挙げられるのは、現実との連動です。シミュレーションの場合、仮定のシナリオを基に仕様設計や実験を行います。それに対してデジタルツインでは現実を仮想空間によって再現していることから、仮想空間上での予測を現実空間へフィードバックすることが可能です。
デジタルツインとシミュレーションは互いに補完するもので、シミュレーションで出た仮説を現実に近いデジタルツインで再現して確認すること繰り返すことで、シミュレーションの精度を高めることができます。
デジタルツインが注目される背景には、次世代技術の急速な発展やデータの高速化・大量化、IT技術の発展などが挙げられます。
近年ではIoTやAI、ビッグデータなどの進化により、デジタル技術の活用が加速しています。これにより物理的な機械や設備に関するデータを収集・分析することが容易になり、それに基づく改善や予測も可能となりました。
このような背景を受けて高度な技術や大量の情報が必要とされるデジタルツインが、より現実的な技術として産業界で注目されるようになったと考えられます。
デジタルツインを活用すると精度の高い分析やリアルタイム分析が可能になります。現実の状況をデジタルモデルで再現するため、そこでの実験や分析は現実世界の効率化や改善にダイレクトにつながります。このような技術は多くの産業においてとても利用価値の高いものです。
また製品開発や工程を最適・効率化することが可能になり、産業イノベーション推進につながる可能性も秘めているためデジタルツインが注目されています。
デジタルツインの活用により生まれるメリットを5つ紹介します。
デジタルツインは現実世界の設備や機器をモデル化することで、リアルタイムにその状態を把握できます。これにより異常が検知された際には迅速に対応できるため、設備保全・メンテナンス性が向上します。
通常、製造ラインでトラブルが発生した場合は実際の現場をチェックする必要があります。そのため、これまではトラブル発生から原因を特定するまでに時間を要していました。
しかしデジタルツインの活用により、原因特定までの時間を短縮でき素早く改善策を打てるようになります。また設備や機器の故障予測ができるため、メンテナンスにも役立ちます。
デジタルツインを用いることでビックデータの解析や様々な要因を踏まえた分析が可能になり、製品の不具合や故障などを特定しやすくなるため品質の向上にもつながります。
また現実空間と比較して、短時間でその製品やプロセスの品質を向上させられるため、顧客満足度の向上につながるメリットもあります。
従来、現実空間における製造・開発過程では、製品の試作を何度も行う必要がありました。一般的にこの試作には多大なコストが発生します。
デジタルツインを用いると試作を仮想空間で行えるようになるため、製品開発や設備改良などにおいて現実空間での試作品の数を減らすことが可能です。また生産プロセス全体も最適化でき、開発前にコスト・人員試算もできます。これらは大幅なコスト削減へとつながるでしょう。
デジタルツインの活用によりリアルタイムで製造工程をモニタリングできるため、生産管理の最適化・業務効率化を図れます。
生産管理の最適化・業務効率化が図れることで結果的に発注から納品までの流通過程の短縮が可能です。さらにデジタルツインの活用は製品の品質向上が図ることができ、不良品のリジェクト率の低減や再加工・再製造の削減につながることもリードタイム短縮に貢献します。
デジタルツインの活用によって、現場にいないエキスパートが実際に現場で作業する人に遠隔で作業支援を行えるようになります。
例えば作業監督者や指導員のような業務は、これまで現場に出向くことが必須と考えられてきました。しかしデジタルツインを利用すれば、リモート環境からリアルタイムでアドバイスや指示を出すことが可能です。
またデジタルツインを活用すると、出荷後の製品のモデリングも行えます。出荷された製品がどのように使用されているのか状態を把握することで、最適なタイミングでアフターサービスを提供できます。そのため顧客満足度と企業価値の双方を高めることにつながるでしょう。
製品の使用状況などの情報から取引先の新たなニーズを把握することも可能です。これにより新しいマーケティング戦略を立てることもできます。
デジタルツイン実現にあたっては様々な技術が貢献しています。ここではデジタルツインに活用される技術として、代表的な5つを紹介します。
IoT(Internet of Things)とはネットワークに接続された様々なデバイスやセンサーから情報を収集・処理・分析することで、それを基に人々の生活やビジネスプロセスを改善する技術のことです。
現代社会では電子機器、ソフトウェア、センサー、車両、家電製品などのアイテムが、IoTのネットワークに組み込まれています。
デジタルツインではあらゆるモノのデータを継続的に収集する必要があるため、IoTの技術は必要不可欠です。
昨今の技術発達が目覚ましいAI(人工知能)技術もデジタルツイン実現を支える技術の一つです。具体的には、デジタルツインの仮想空間上での分析作業や予測作業はAIが行っています。
またAIはデジタルツインの構築に必要なデータを収集・解析するうえでも、重要な役割を担っています。例えば以下に示す例のように、様々な手法や角度で実世界からのデータ収集を行えるようになったのはAI技術の発展があってこそといえるでしょう。
近年のAIは情報処理能力が大幅に向上したため、IoTで収集した膨大な情報も素早く処理できるようになりました。
5G(第5世代移動通信システム)は高速大容量・低遅延・多数同時接続を実現した次世代の通信技術です。
1世代前の4Gと比較して最大通信速度は20倍、伝送遅延は10分の1、同時接続台数は10倍になるとされています。スマートフォンを支える通信技術だった4Gから社会全体を支えるインフラとして進化しており、多くのモノや人がインターネットに接続する時代においてなくてはならない技術といえるでしょう。
デジタルツインにおいても、リアルタイムで仮想空間へ情報を送るために5Gの活用は今後も広がっていくことが見込まれます。
AR(拡張現実)やVR(仮想現実)技術は現実の物体や環境を補完・拡張・再現する技術であり、エンターテインメント分野などで利用されています。この仮想空間を現実空間のように見せるAR/VRも、デジタルツインにとって重要な技術の一つです。AR/VRによって仮想空間で起こったトラブルや問題をよりリアルな形で確認できるからです。
AR/VR技術がなければ仮想空間で起きたエラーなどを視覚的に把握することができません。したがってより効果的なデジタルツイン活用のために、AR/VRは今後も重要な役割を担うといえるでしょう。
CAEとはComputer-Aided Engineeringの略称で、製品の設計段階で性能的な問題がないかを事前に分析するシステムのことです。コンピューター上で製品の設計・解析を行うため、実物を作らなくても完成品の全体像を把握できます。また真空や高温状態など、実際には実現することが簡単ではない条件下でのシミュレーションも可能です。
CAEは自動車業界やエレクトロニクス業界、ヘルスケア業界など、様々な分野で活用されています。CAE分析を行うことで実験回数を減らすことができ、プロセスの短縮やコストカットなどの効果が期待できます。
CAEはデジタルツイン以前から製品開発などの事前シミュレーションとして用いられていましたが、IoT技術の普及によりリアルタイム性が向上しデジタルツインでも活用されています。
RTLS(リアルタイム ロケーション システム)はリアルタイム位置情報システムとも呼ばれ、無線信号を用いて人やモノの位置を追跡するシステムのことです。
大きく分けるとGPS衛星からの電波を活用するものと、屋内などの特定の領域で位置情報を測定するIPSシステムと呼ばれるものがあります。IPSシステムではセンサーやタグなどのデバイスを人やモノに取り付け、無線通信によって位置情報を収集して、専用のソフトウェアによって集められたデータを解析することで位置を把握します。
デジタルツインにおいて活用されると人やモノの位置情報をリアルタイムで収集できるため、作業環境を適切に監視することなどが可能になります。
デジタルツインがこれまで実際に活用された事例を紹介します。
2022年に開催されたFIFAワールドカップカタール大会では、前回のロシア大会に引き続きデジタルツインが活用されました。ボールや選手の動きなどを仮想空間上で再現することで、フォーメーションを計画する際や選手交代時に役立てられました。
また審判員が利用するVAR(ビデオアシスタントレフェリー)にも、デジタルツインの技術が活用されていました。VARはビデオ映像を用いて試合中に起こったプレーを再確認して誤審を防止するシステムです。
VARの対象となったシーンを3Dモデルで再現できるため、裁定の正確性を高めることができました。またデジタルツインを用いてプレーを再現することで、選手やファンに対して詳細な説明が可能となったのです。
シンガポールは世界で初めて国まるごとのデジタルツイン化を実現しました。バーチャルシンガポールでは政府機関が持つ既存データに加え、スマートフォンやセンサー、カメラからリアルタイムに収集された新たなデータが整理・分析されています。
国家のデジタルツイン化は、国が抱えるあらゆる課題に対応するためのソリューションを予測・構築するのに役立つ施策です。実際にシンガポールでは、気候変動の課題対応にデジタルツインの正確な地形モデルが役立っています。また太陽光発電の展開には建物モデルデータが重要な役割を担っており、エネルギー問題の解決にも有効であるといえるでしょう。
デジタルツインは都市計画においても有用です。都市の未来像が仮想空間で体感できるため、都市開発が盛んなシンガポールのような国にとってその活用は多くのメリットがあります。
例えば道路整備やビル建設による車の流れへの影響を分析して渋滞緩和につなげたり、リアルタイムな工事の進行を可視化して効率化につなげたりといった活用が可能です。
多岐にわたる事業を手がけるゼネラル・エレクトリックス社(GE)は、医療から航空といったあらゆる部門でデジタルツイン活用を進めています。
例えば航空分野ではデジタルツインを活用してメンテナンス実施時期を算出することで、コスト削減や不具合の未然防止に役立てています。デジタルツインを用いると従来よりも高度な予測分析が可能となるため、故障の事前予知や部品交換のタイミングの最適化につながるのです。
また医療の分野では、病室の稼働状況やMRIなどの画像装置の稼働状況をスケジュールするソフトウェアの開発などに役立てています。
医療現場では前述したRTLSのデジタルツインにおける活用が始まっています。
例えば患者とスタッフの位置追跡が活用例として挙げられます。施設内での患者とスタッフの接触経緯を確認することで、万が一の事態でもスムーズに隔離措置などが取れる仕組みです。これは医療の安全性向上に貢献しているといえるでしょう。
また追跡タグを患者に付けて行動パターンを監視することにより、回復レベルの把握が可能になります。その他、医療機器に追跡タグを付けることで機器の場所をすぐさま把握でき、盗難防止にもつながるといった活用方法もあります。
参照:「RTLS (リアルタイム位置情報システム) の医療提供者へのメリット」
デジタルツインとは現実世界とデジタル世界を結び付ける技術であり、現実空間やプロセスを仮想的に再現できます。
この技術はIoT、AI、5G、AR/VR、CAE、RTLSなどの最新技術を活用して実現されます。昨今のデジタル技術の進歩によりデジタルツインの実現が現実的なものになり、ますます注目を集めるようになりました。
デジタルツインには「設備保全」「メンテナンス性の向上」「品質向上」「コスト低減」「リードタイム短縮」「遠隔での作業支援」「アフターサービス充実化」といった多くのメリットがあります。産業界だけでなく行政などでも活用事例が出てきており、今後も多くの分野でより重要性が増していくことが予想されるでしょう。